2012年8月20日月曜日

過ぎたるはなお及ばざるが如し

発達障害の特性は様々あるが、診療上最も重視する点は、全体から部分を抽出する困難さと、部分から全体を要約する困難さの混在である。
これらが日常生活の「障害」となることが多く、複数人の会話となると、会話のキーを抽出するのに時間がかかったり、質問に対して即応的に要約できず、逐一説明し始めたりと、疲弊してしまうことがしばしばある。

特にアスペルガータイプの人に多いのが、「オーバーシミュレーション」である。
論理的思考に長けていればいるほど過剰となり、セレクションやアウトプットに時間を要してしまう。これだけでも相当のエネルギーを使っているのに更なる要求が重なると、オーバーワークとなる。
このタイプの特徴は、し「過ぎ」てしまうこと、そして、自らの状況、状態のモニター困難である。

発達障害のある人に対して「シンプルに、簡潔に」伝えるというのは、「選択肢を減らしスリム化する」ことでもある。セレクション~アウトプットまでの時間をいかに短縮できるか、それにより疲弊する度合いも断然低くなる。

発達障害のある人たちは、経験上疲弊し動けなくなるのがわかっているので、「こだわる」。
決めていれば思考に費やすエネルギーを減らすことができる。
発達障害者のこだわりは、「省エネ」のためとも言えよう。

ここで、発達障害者の過剰シミュレーション例を挙げてみる。
「今日、飲みにいかない?」と誘われると、本当は行きたくないけど・・・他に誰が来るのだろう、いつ帰れるのか、どうやって帰りたいことを伝えるか、食べられるものがなかったらどうしよう・・・など、「飲みに行かねばならない状況」の考えで占拠され、他の情報が入らなくなるため、本来すべき業務、学業などに集中できなくなってしまう。

上記の誘いの例を修正してみる。
「○○という居酒屋で、21時まで飲みに付き合って。△△の話をしたいので、聞くだけでいいから」と状況を絞り込んでお誘いすると、安心してもらえることが多い。そして、多くは話を真剣に聞いてくれる。自ら成すべきことが明確な時、特性はポジティブに作用する。

熟考し過ぎの果てに、何も成しえなかった、言えなかった、という体験が積み重なっているアスペルガータイプの人たち。
日々「過ぎたるはなお及ばざるが如し」という心境なのだろう・・・。

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